天秤にかける価値を考えよう − 篠山市の小学校統合とスクールバス事業の損得勘定
今の仕組みを変えることを恐れるだけではなくて、
何と何を天秤にかけているのかをきちんと考えようというお話。
☆クロスセクターベネフィットを分析しよう
「クロスセクターベネフィット」という言葉があります。
もともとは、ヨーロッパで、
「公共交通のバリアフリー化を進めれば、
高齢者が外に出歩くようになり、
その結果健康の増進による社会保障費の抑制など
別の部分(異なるセクター)での便益がある」
という主張がなされていたものです。
例えば給食サービスを受けている
高齢者の多くが自分で料理をすることができ、
またその希望も持っているが、買物に出かけることの物理的な困難さから
サービスを受けている状況が明らかになった。すなわち、
もし歩道や公共交通手段がバリアフリー化されれば、
年間4,260 万ポンドにのぼる
給食サービスの何割かが削減できる可能性がある。
http://www.mlit.go.jp/pri/houkoku/gaiyou/pdf/H12_3.pdf
ただ、これはバリアフリーだけに限りません。
「公共交通の維持」にAというコストがかかるとしても、
「公共交通ない場合」に別のBというコストがかかり、
A<B
であるのなら、公共交通を維持するのが妥当という主張がなされています。
たとえば、
バスがなくなることで、
道路混雑解消のための施策をするとか、
買い物難民のための日用品販売が必要になるとか、
そうしたコストと比較するべきであるというものです。
☆公共交通でカバーできる部分を積極的に考えよう
この点、ササヤマンは更に議論を進めます。
簡単に言ってしまうと、
公共交通の維持に金がかかるとしても、
施設の統廃合などで浮いたお金のほうが上回るのであれば、
統廃合などを進めるべきだと考えます。
上のクロスセクターベネフィットの論法に従うのであれば、
学校の統廃合などによりBというコストを削減しようとしているとします。
そうすると住民にとってはサービス低下(学校まで通学できない)が起こります。
これを防ぐために
公共交通をAというコストで新たに始めます。
このとき、
A<Bであるなら、元のサービス(元の場所の学校)を維持するより、
公共交通でカバーするほうが望ましいと考えます。
☆篠山市の城東小学校のケースで考えてみる
この点、篠山市の城東小学校統合のケースで考えてみたいと思います。
日置、雲部、後川の3つの小学校の
城東小学校への統合された
平成22年度の篠山市の予算では、
小学校統合等スクールバス運行事業として、
約1000万円が追加で投じられることとなりました。
つまり、3つの小学校の統合に伴う
公共交通での追加コストは年間1000万円になります。
一方で、
小学校を維持する場合に
行政にかかるコストとしては、
小学校の管理費
小学校の建て替えコスト
(減価償却費)
小学校の人件費
があります。
篠山市のこの3小学校のコストについては
明らかにされていないのですが、
高松市が42の小学校(1分校含む)の維持管理コストとして
約19億円
という分析をしています。
すなわち、
1校あたりの維持管理コストは
約4500万円
という結果になります。
これを篠山市に当てはめてみると、
(A)統合してバスを運用する追加コスト = 約1000万円
(B)統廃合せずに2校を運用するコスト = 約9000万円 (4500万円×2校分)
ということで、
約9倍のコストの差が生じることになります。
☆住民にはメリットもあればデメリットもある
もちろん、
住民(この場合は生徒)からすれば、
移動距離が長くなるという問題はあります。
ためしにササヤマンがグーグルマップで
旧雲部小学校所在の西本庄、
旧後川小学校所在の後川
から
現在の城東小学校までのルート検索を行ってみたところ、
車で15分程度の距離になりました。
したがって、
平均で往復30分程度は移動コストが増加すると考えられます。
※これを多いと考えるか少ないと考えるかは人それぞれです。
一方で、
それぞれの旧小学校のHPによれば、
統合前の児童数は
雲部小学校が33
後川小学校が16
であり、
複式学級であったとしても、
十分なクラス人数の確保が困難だったと考えられます。
クラス人数は多ければいいというものではありませんが、
少なすぎるクラス人数によって、
教育の機会を失っている部分も大局的にはあると考えます。
☆それでも人口減少フェーズでは考える意義がある
このように、
住民のプラスマイナスを考えると、
必ずしも結論を出すことは難しい部分はあります。
しかし、
人口減少フェーズにおいて
限られたリソースをうまく使う必要があることを考えたとき、
行政のコストで9倍の差があるということは
大きなポイントだと考えます。
以前にも書きましたが、
人口減少と騒ぐ前に、
人口減少によって生じる課題に個別に対応していくべきです。
こうしたクロスセクターベネフィットを分析し、
公共交通でカバーできる部分については
公共交通でカバーすることで
行政サービスを維持することを真剣に考えるべきです。
ではではまた次回。